日本各地を高速で結ぶ新幹線は、今や日本の象徴的なインフラとして世界にも知られています。
東海道・山陽・東北・九州……主要都市はすでに新幹線でつながっていて、「全国ほとんど整備し終わった」と思う人も多いかもしれません。
しかし実は、いまだに「建設が始まっていない未着工路線」や「構想段階にある夢の新幹線ルート」が、日本全国にいくつも存在しています。
どれも地域の悲願として長年議論されてきた路線であり、地元では今も「いつか実現を」と熱望されているのです。
この記事では、そんな整備計画に入っている未着工新幹線と、構想・候補レベルの新幹線ルートを一挙に紹介します。
未来の鉄道地図を思い描きながら、まだ見ぬ新幹線の姿を一緒にのぞいてみましょう。

新幹線の話題ではよく「〇〇新幹線ができる」「計画中」と聞きますが、
実はひとくちに「計画」と言っても国が正式に認めたものと、まだ構想段階のものに分かれています。
以下の表で、その違いを整理してみましょう。
| 項目 | 整備新幹線 | 構想新幹線 |
|---|---|---|
| 定義 | 国(政府・国交省)が整備計画に正式決定した路線 | 地元自治体や経済界が要望している段階 |
| 位置づけ | 法的に「将来建設してよい」と認められている | 法的根拠なし。政治的な提案・要望にとどまる |
| 主体 | 国とJRが中心 | 地元自治体・議員・経済団体など |
| 現状の例 | 奥羽・羽越・四国・東九州新幹線(未着工) | 山陰・紀勢・豊予ルート・中京新幹線など |
| 実現可能性 | 国の優先順位や採算性次第で将来着工の可能性あり | 国の整備計画に採用されない限り着工できない |
ポイント

新幹線はもう全国に張り巡らされているように見えますが、実は今まさに工事が進んでいる路線も複数存在します。
ここでは現在「建設中」「延伸工事中」とされている3つの新幹線ルートを紹介します。

画像:日本経済新聞より引用
北陸新幹線について、下記で京都を中心に見た形で詳しく紹介していますので併せてご覧ください。

画像:JRTTより引用

画像:西日本新聞より引用

ここから紹介する4路線は、国の「整備新幹線計画(1973年決定)」に正式に盛り込まれているものの、採算性や優先順位の問題からいまだに着工していない「未着工新幹線」です。
つまり「将来つくってもよい」と国に認められている状態で、地元では今も実現が強く望まれています。

画像:産経新聞・秋田 奥羽・羽越新幹線の「革新力」 八並朋昌より引用



これから紹介する4路線は、国の整備新幹線計画にはまだ指定されていないものの、地方自治体や経済団体、国会議員などが*「将来の高速鉄道ネットワークとしてぜひ実現を」と働きかけている路線です。
いずれも交通の空白地帯解消や地域振興を目的として構想されています。

画像:山陰新幹線 | 山陰縦貫・超高速鉄道整備推進市町村会議より引用

画像:フリーゲージトレインの必要性と導入に向けた取組 | 和歌山県より引用

画像:東海テレビより引用

画像:日本経済新聞より引用

未着工の新幹線ルートがなかなか動かない背景には、次のような3つの大きな壁があります。
どれか一つでも突破が困難なのに、実際にはこれらが同時に立ちはだかっているのです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
新幹線の整備には莫大な初期投資が必要なため、まず「利用者がどれだけ見込めるか」が最重要視されます。
ところが、日本は急速な少子高齢化と都市集中が進み、地方では人口減少が深刻化しています。需要予測を立てても、今後30年先にはさらに利用者が減っている可能性が高いため、「将来の赤字リスク」が大きすぎると判断されやすいのです。
また、新幹線は単なる旅客輸送だけでなく観光やビジネス需要にも支えられていますが、地方ではその市場規模が限られていることも課題です。つまり「採算を確保できる見通しが立たない限り、国が建設にGOを出せない」構造になっています。
新幹線は高速運行のためにカーブや勾配を極力排除する必要があり、山岳地帯や都市部では長大トンネルや高架橋が不可欠です。
その結果、1kmあたりの建設費が200〜300億円規模に達することも珍しくありません。さらに近年は資材費や人件費が高騰し、想定より工費が膨らむケースが相次いでいます。
たとえば北海道新幹線(新函館北斗〜札幌間)でも、当初見込みを超える巨額予算が必要となっています。こうした状況では、たとえ地元から強い要望があっても「国家財政にとって重荷になりすぎる」と判断され、優先順位が低くされやすいのです。
新幹線建設では、国とJRだけでなく沿線自治体にも多額の負担が求められます。
自治体は整備基金の拠出や用地取得、関連道路の整備などを担うため、財政基盤が脆弱な地方では負担能力そのものが問題になります。
また、ルートをどこに通すかをめぐって沿線自治体や地元経済界の間で対立が起きることも多く、合意形成に時間がかかります。さらに、国会議員や各省庁、JRの経営判断なども絡み、政治的な根回しと調整に膨大なエネルギーと年月がかかるのが実情です。そのため「技術的には可能でも、合意がまとまらず進められない」ケースが少なくありません。
未着工のまま何十年も進まない新幹線計画に、いまも地元が声を上げ続けているのはなぜなのでしょうか。
そこには次のような3つの強い動機があります。
それぞれ詳しく見てみるとしましょう。
新幹線が開通した地域では、観光客数の増加や企業立地の促進など、目に見える経済効果が生まれる例が多くあります。アクセス時間が短縮されることで、都市圏への通勤・通学が可能になり、人口流出を抑える効果も期待できます。
また駅周辺の再開発や商業施設の進出も活発化し、雇用や税収が増える「経済の好循環」を生み出せると考えられています。地方にとっては、新幹線の有無が「未来の成長力」に直結するため、多少の採算リスクを抱えてでも建設を求める動きが根強いのです。
新幹線は高速移動手段であると同時に、災害時の輸送インフラとしても重要視されています。たとえば東日本大震災や豪雨災害時には、主要幹線が寸断され全国的な物流や人流に影響が出ました。
この経験から、「一本しか高速ルートがない地域はリスクが高い」という認識が広まり、もう一つの軸(バックアップルート)を確保する目的で新幹線整備を求める声が強まっています。とくに日本海側や南海トラフ地震の想定エリアなど、災害リスクの高い地域ほど「第二の動脈」の必要性が強調されています。
新幹線は単なる移動手段を超えて、「都市のステータス」や「日本の先端に属している象徴」として扱われる側面もあります。実際、京都は北陸新幹線の小浜ルートには消極的ながら、リニア中央新幹線のルートから外れたことには強く反発しました。
これは利便性の問題というより、「リニアが通らない=主要都市から外される」という名誉や面子に関わる問題だったのです。地方都市にとっても、新幹線が通ることは「一流都市の仲間入り」とみなされる傾向があり、経済合理性だけでは測れない強い動機になっています。
日本の新幹線網は一見すると全国を網羅しているように見えますが、実際には未着工の整備計画路線や、構想段階にとどまる夢の新幹線ルートが数多く残されています。
どの路線も、人口減少や採算性、建設費、政治的調整といった高いハードルに阻まれているものの、それでも地元が声を上げ続けている背景には、経済効果や防災、そして都市としての面子という強い動機があります。
今後もこれらの計画が一気に進む可能性は高くありませんが、少子化や災害リスク、観光振興といった時代の変化次第では、再び注目を集める局面が訪れるかもしれません。
「次に新幹線が開通するのはどこか?」という視点でニュースを追えば、日本の未来のかたちが少しずつ見えてくるはずです。